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「TSUNAGU(つなぐ)」とは“結ぶ”こと。働き手を探す人と仕事を探す人を結ぶ、異文化を結ぶ― かたちは違えど、私たちActiv8はより良き世界の実現のため「架け橋」となり日夜努力している方々に、心からの敬意を表します。Activ8の新しいシリーズ「TSUNAGU」は、ビジネス、教育、芸術、文化などを通じて日本と北米をつなぐ、インスピレーションあふれる人々を特集します。

第24回 カリスター真理子さん:手打ち蕎麦パフォーマー、人事プロフェッショナル

今回は、「手打ち蕎麦パフォーマー」として活躍されるカリスター真理子さんを紹介します。真理子さんは、日系企業で人事を担当しながら、シカゴを拠点にレストランやイベントで、蕎麦打ちのパフォーマンスを披露しています。元々は愛知県で国際イベントのスタッフとして日本文化を紹介する仕事に従事していた真理子さんですが、シカゴに移住してからは蕎麦打ちを通して、アメリカ社会に日本の伝統的な味を伝えています。十数年前までは蕎麦作りに無縁であった真理子さんが、いかにして今日シカゴで手打ち蕎麦の魅力を伝えるパフォーマーになられたのか、お話を伺ってみました。

日本酒との出会い

物づくりが盛んな愛知県で生まれ育った真理子さんは、社会人になってからも愛知県に住み、国際イベントのスタッフとして日本の伝統文化や産業を紹介する仕事をしていました。2005年に開催された愛知万博では海外の参加者を日本酒の酒蔵へ引率し、参加者とともに酒蔵で味わう搾りたての日本酒に感動を覚えました。一旦興味を持つととことん追求する性格だという真理子さんは、醸造について知識を深めていき日本酒に魅了されていきます。中でも『獺祭』(だっさい)という山口県の旭酒造の銘酒は、「今まで味わった事のないフルーティーで香り高いワインのようなお酒」だったそう。この酒こそが人生に大きな影響を与え、のちに旭酒造で一年間、酒造りを修行することになるとは、その時の真理子さんは知る由もありませんでした。

写真)万博パビリオンスタッフを引率して「ねのひ」の酒蔵へ

人生の転機

職場で知り合ったアメリカ人との結婚を機に渡米。期待に胸を弾ませてスタートしたアメリカ生活でしたが、待っていたのは厳しい現実でした。リーマンショックの煽りを受けての失業。乳飲み子を抱えた真理子さんはすぐに働きに出られる状況ではなく頼る人もいない海外生活の中、不安な日々を過ごします。“これからどうやって生計を立てていこう”と悩んだ末に頭に浮んだのは、イベントで出会った銘酒『獺祭』の酒蔵でした。「日本に戻って日本酒の醸造を学び、アメリカで醸造を始めることができたら・・・私がかつて感動したように日本酒の美味しさをアメリカに住んでいる人々にも伝えたい。」時を同じくして、実家の母親から「蕎麦打ちの神様」と異名を取る広島県の高橋名人の話を聞きました。蕎麦は江戸時代から日本酒と深い縁があり、蕎麦屋には必ず日本酒が置いてあり、蕎麦を注文して待つ間に日本酒を嗜む習慣があったそうです。「日本酒に合う蕎麦を作れたら」と思い立ち、早速名人に電話をかけ弟子入りを志願。お許しをいただくと配偶者と子供を連れて日本へ一時帰国し、広島県の山奥で高橋名人から蕎麦作りを学び、一年かけて夫婦で山口県の酒蔵(旭酒造)で働きながら酒造りを学びました。

写真)広島の山奥で高橋名人に蕎麦打ちを教わる

逆境を乗り越え、蕎麦打ちの世界へ

修行を終え、「二人で日本酒と蕎麦を出すビジネスを」と一旗揚げる志を持ってアメリカに戻った真理子さん夫妻でしたが、夫婦生活は長く続きませんでした。結果、ビジネスの構想は立ち消えになり、泣く泣く酒造りを断念せざるを得ませんでした。将来への展望が無くなり、シングルマザーとして今後の生活をどうしていこうかと思い悩みます。ハーグ協定もあり日本にも戻れない。アメリカに家族も居らず、子供に十分なことをしてあげられない。厳しい状況でしたが、気持ちを奮い立たせて生活のために就職し、仕事と育児に追われる忙しい生活となりましたが、自宅で蕎麦を打つことだけは続けました。無心になって蕎麦を打つ、その静寂な時間が心の支えともなりました。それから数年経った頃、あるご縁から蕎麦打ちのイベントをお願いされ、初めて人様に手打ち蕎麦を提供することに。そのお蕎麦が評判となり、他のイベントでも呼ばれるようになりました。お蕎麦を通して様々な出会いがあり、真理子さんの世界は広がっていきました。「私は非常に恵まれています。」と語る真理子さん。「まずは、タイミングが良かった。ヘルシー思考の今だからこそ、この繊細な蕎麦の香りも楽しんでいただける。十年前のアメリカだったらここまで共感を得られなかったと思います。」そしてシカゴという土地柄も良かったという。「ニューヨークやカリフォルニアほど日本の文化が浸透していないから、日本文化を紹介するのにちょうど良い環境だと感じます。」現在は月一のペースで蕎麦打ちイベントが予定されているそうです。

写真)シカゴWEST LOOPのレストランで手打ち蕎麦イベント

こだわりの蕎麦

真理子さんの作る蕎麦の配合は、伝統的な「二八そば」で“蕎麦粉8:小麦粉2”。この割合こそが風味や旨みを十分に楽しめ、喉越し良くいただける比率だそうです。蕎麦粉はニューヨークからの特注。以前は日本から調達していたそうですが、イベントに合わせて新鮮な蕎麦粉をニューヨークから送ってもらうことで、アメリカ国内で地産地消が叶い、フレッシュな蕎麦を提供することが可能になりました。蕎麦粉には「ルチン」という成分が含まれており、血管を強くするとともに抗酸化作用があり、アンチエイジング効果があるスーパーフードとして注目を浴びています。江戸時代に流行した「蕎麦屋で酒を飲み、最後は蕎麦で締める」という風習は健康面でも理にかなっているという事でしょう。

写真)均等に切られた蕎麦はまさに芸術品

蕎麦打ちの実演

蕎麦打ちを実演するイベントには、故郷の味を懐かしむ日本人も、蕎麦を食べるのが初めてというアメリカ人も一緒に場を囲み、参加者がみな楽しめる内容になっています。蕎麦打ちに必要な道具は見た目にもインパクトがあります。独特の形をした高さのある蕎麦切り包丁、1メートルはある大きなまな板、長いのし棒が3本、そして大きなこね鉢。真理子さんはハンズフリーマイクを通してその工程を実況しながら、それらの大きい道具を巧みに使いこなします。蕎麦を打つのは腕のみならず足腰も使い、かなりの体力を要するそうで、普段からマラソンのトレーニングをしていることが役に立っているとのこと。水加減は季節やその日の天候によっても変わるので、粉をこねている時に指先から伝わる感覚で微妙なバランスを調整するそうです。また乾燥を防ぐため、蕎麦をこねてから切るまでの全行程を効率良く50分以内に終える必要があり、手際の良さが求められるそう。実演中は常に手を動かしながらも、観客に蕎麦打ちの肝心なポイントや蕎麦の歴史を伝え、お客さんと質疑応答を重ねながら交流を楽しむ真理子さんの姿が印象的です。参加者は新鮮な蕎麦の香りを嗅ぎ、生地を切るリズミカルな音を楽しみ、打ちたて・茹でたての蕎麦の香りと食感を五感で堪能できる。このイベントの魅力がそこにあります。

写真)蕎麦打ちイベント(Japan Festival 2023)にて

キャリアアドバイス

持ち前の行動力で人生を切り開いてこられた真理子さん。キャリアに悩まれている方へのアドバイスを求めると、「私の人生、挫折だらけですよ。努力だけではどうにもならないことがいっぱいありました。でも、うまくいかない事があるからこそ、新しいチャンスが来ると思います。」と返事がきました。また、日本人の持つ資質についても触れ、「日本人は豊かな文化を背景に持ち、真面目で誠実な気質を持っていると思います。」と語る真理子さん。「そのような日本人だからこそ、アメリカで頑張っていけるクオリティがあると思います。」とエールを送ります。今でこそ、人前でのパフォーマンスも積極的に楽しむ真理子さんですが、子供の頃は読書好きでどちらかというと内向的なタイプだったそうです。「人間って変われますよ。」と笑顔で語ってくれました。

今後のビジョン

国際交流で人と人を繋ぐ事が大好きだという真理子さん。普段は人事のプロとして社員教育や日本本社とシカゴを繋ぐ役割も担っているとの事。人事も蕎麦打ちも「人を繋ぐ」面白さがあるそうです。特に蕎麦打ちは、コロナ禍後だからこそ一層、お客さんの反応が直に伝わってくるライブのパフォーマンスの有り難さを感じるそうです。今後は「蕎麦をより広くアメリカ社会に紹介していきたい」と希望しています。「今までに無かったような食べ物と蕎麦を組み合わせて提供したり、多種多様なコラボの機会を増やしていきたい」と意気込みを話します。また、将来的には親子で楽しめるような蕎麦打ち教室も開催したいそうです。

ヘルシーで栄養価の高い蕎麦だからこそ、健康を重視する現代のトレンドに合致し、アメリカ社会でも蕎麦への関心が高まっています。真理子さんの技とパフォーマンスを通して、日本の伝統的食文化である蕎麦の魅力がアメリカ社会に発信され、今後どのように新しい展開を迎えていくか楽しみですね。真理子さんのさらなる活躍に期待しています。

 

関連サイト

sakesobamariko.com

Instagram:  sake_soba_mariko

今後のイベント予定

  • Chicago/Millenium Park:ジャパン・フェスティバル(6月16日(日曜)祭り開催は11AM~5PM)
  • Chicago:Davetail Brewery(6月30日(日曜)2PM~)

 

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