「TSUNAGU(つなぐ)」とは“結ぶ”こと。働き手を探す人と仕事を探す人を結ぶ、異文化を結ぶ― かたちは違えど、私たちActiv8はより良き世界の実現のため「架け橋」となり日夜努力している方々に、心からの敬意を表します。Activ8の新しいシリーズ「TSUNAGU」は、ビジネス、教育、芸術、文化などを通じて日本と北米をつなぐ、インスピレーションあふれる人々を特集します。
第22回 勝山雄太さん:起業家・Onigiri Kororin共同創業者
今回は「おにぎりをアメリカに広めたい」という、起業家でOnigiri Kororin共同創業者の勝山雄太さんをご紹介します。勝山さんは、東京の大学を卒業しフードテックなど食に関わるコンサルティング会社で数年間勤務した後、ビジネスとデザインを勉強するためシカゴのイリノイ工科大学(IIT)に留学。日夜勉学に励む中、「ヘルシーで美味しい日本のおにぎりが食べたい」という思いが日々募り、2020年の夏、おにぎりの販売を始めます。そこから、スタッフ12名を抱える経営者となるまでのストーリーを聞いてみました。
法学部からMBAへ
東京で生まれ育った勝山さんは、幼い頃は図工などクリエイティブなことが好きで、何かを作り出しては周りの人々に披露していたそうです。慶應義塾大学の法学部で学び、卒業後はフードテックの経営コンサルタント会社に就職。食品の冷凍技術や、インターネットにつなぐIoT家電に関わる仕事に携わりました。海外出張が多く有意義な経験を重ねる一方、当時は英語が上手く話せずコミュニケーションに苦労しました。それでもアメリカの大学でMBA修士号を取得したいと夢を抱き、2018年にシカゴに来ました。
おにぎりに目覚めた留学生活
幼い時から物作りに長けていた勝山さん。コンサル業務に携わっているサラリーマン時代は「自分で何かを作りたい」と悶々とした思いを抱えていたそうです。留学先のIITではデザインと経営学のダブルメジャーで挑むことを決意。デザインがビジネスに与えるインパクトにも興味があったからです。
勉学に勤しむ日々、ふと心に思い浮かぶのが「おにぎり」。日本ではいつも身近にあり、特にサラリーマン生活をしていた時は、残業のたびにお世話になっていたおにぎりが、シカゴでは見当たりません。仕方なくお昼にアメリカのコンビニのサンドイッチを食べることがありましたが、決して満足のいくものではありません。「美味しいおにぎりが食べたい!」という強い想いにかられました。その想いは形として表れ、大学院のプロジェクトでおにぎりの形をした三角形の炊飯器をデザインしました。それが、教授やクラスメイトに好評で、新たなアイデアにつながっていきました。
翌年には、食に特化した起業支援団体Hatcheryのセミナーを受けて感銘を受け、6カ月間のSprouts Incubation プログラムに参加することにしました。起業家を目指す人々に商品のコンセプトからマーティングまでを指導・サポートするプログラムです。ちょうどその頃、新型コロナウイルス感染症が世界を襲い、2020年の春にはシカゴもロックダウンに入りました。社会的な活動ができない状況でしたが、このプログラムに背中を押される形で、同じ大学院でデザインを学ぶクリスティーナ・タリバさんと一緒に、おにぎりを販売する事業を立ち上げることにしました。
Onigiri Shuttle Kororinの誕生
様々な方々とアイデアを構想した結果、オンラインで注文を受け、指定の場所におにぎりを届けるというシャトル販売に決定。当時30歳の勝山さんは「Onigiri Shuttle Kororin」を誕生させました。この名称は日本の民話『おむすびころりん』が由来で、「欲張りなおじいさんが意地悪をし罰せられるストーリーですが、僕は正直なおじいさんのように誠実に皆さんに楽しみを与えるおにぎりを作りたい、と思ったのが始まりです」と勝山さん。2020年7月に、味噌ネギ、トウモロコシ、チーズ、鮭、豆腐など多種類な具材を使ったおにぎりを竹の皮で包んで販売を開始しました。口コミやSNSなどで情報が拡散されると、2週間後には指定の場所に列ができるようになるほど反響が良く、リピータも増え順調なスタートとなりました。
SNS、メディアの効果
Onigiri Shuttle Kororinのハッシュタグを作りSNSを大いに活用し情報発信を行ったところ、直ぐにメディアの目に留まりました。約1ヶ月後にはChicago Readerのフード記者Mike Sula氏が、「勝山さんはおにぎりの王様」という記事を出しました。10月にはWGNテレビの朝のニュース番組の有名なAna Belaval記者の取材を受け、Hatcheryから生中継。翌年の9月には、Chicago MagazineがKororinの「味噌ネギおにぎり」を特集し、12月号ではそのおにぎりが、この年に食べて美味しかった27の料理の1つに選ばれました。ブランドの知名度を高めるのにメディアのインパクトが大きかったと振り返る勝山さん。メディアのお蔭で、勢い良くKororinの輪が広がり、コラボをしたいというオファーも受けるようになりました。当初5週間の予定で企画されたプロジェクトでしたが、この時点で勝山さんは「前進あるのみ」と判断したそうです。
試行錯誤してみつけたビジネスモデル
経営の面では勝山さんがオペレーションを管理、パートナーのクリスティーナさんが営業を担当。Onigiri Shuttle Kororinは好調に進んだものの、シカゴに冬が来ると屋外で食べ物をピップアップする人が激減。また、パンデミックが終息するとレストランが再開しお客様が減り、ビジネスモデルを改める必要性に迫られました。食品・飲料水メーカー、レストラン・バー、小売り店舗などとコラボを行い、Uber Eatsも活用しビジネスを維持させました。「正直この2年間は辛いものがありました。でも諦めずに、イベントやケータリング、料理教室などをビジネスモデルにし試行錯誤を重ねました。」と振り返る勝山さん。世の中の経済・社会状況がビジネスに与える影響を痛烈に実感しました。
ビジネスの成長を考えると着実かつ安定した販路が必要で、経験と知恵を絞り合って辿り着いた解決法は、おにぎりを小売店舗に卸すこと。2022年3月にOnigiri Shuttle Kororinを閉め、同年7月に卸事業に向けて活動をスタートさせました。共同経営者のクリスティーナさんがメキシコ人であることが、ラテン系の方々が多い小売り業界において有利に働きます。クリスティーナさんが得意のスペイン語を駆使し攻めの営業力を発揮すると、顧客がみるみると増えていき、11月には正式に「Onigiri Kororin」として卸業務を開始することになりました。
おにぎりをアメリカに広めたい
事業が新展開を迎え、拡大していく中で、業務プロセスの見直しや組織改革も必要に。二人の力だけでは限界を感じ、勝山さんはチーム作りに励みます。現在はキッチン、デリバリー、営業、会計などのメンバーを含めて合計12人のスタッフを雇用しています。そしてBeatrix Market、Goddess & Grocers、Fresh Market Placeなどメジャーなチェーン店やシカゴ大学を含む約40店舗におにぎりを卸しており、「2024年中に100店舗まで伸ばしたい」と、勝山さんは目を輝かせながら目標を語ります。
アメリカの都市部では、お寿司やラーメンは主流の食文化に入っていますが、おにぎりはまだまだ認知度が低いのが現状。具材をアメリカ人の好みにあわせるなど、ある程度工夫してローカライズしながらも、美味しい日本米を使ったおにぎりを紹介して行きたいそうです。「おにぎりの認知度を上げながら地道にやっていきたい。おにぎりをまだ知らない人が多く、Kororinをおにぎりと思っている人もいます」と笑う勝山さん。
キャリアアドバイス
「自分の人生、好きなことをとことん追求したい。好きじゃ無いと続かないから」と語る勝山さん。経営者としては日々新しい学びを大切にし、チームの意見を聞きながらリーダーシップを取ることを心がけているそうです。「日本人は一律に強みと弱みがはっきりしているように感じますが、アメリカ人は個性が強い人が多い。チームメンバー一人一人の個性を生かせるように努めています」。大学では法律を学んだ勝山さんはルールを守りながらも、“クリエイター”として既存のルールに敢えて挑み、斬新で面白い物を作り続けていきたいそうです。
アメリカでおにぎりが普及する日が楽しみですね。勝山さんの益々のご活躍を期待致します。
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