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「弊社は米国で事業を開始することになりましたが、現地法人を設立すべきでしょうか、それとも支店として拠点を持つべきでしょうか。」

これは、しばしば当事務所のクライアントから相談を受ける案件です。クライアントのニーズによって既に事業形態の構想は出来ている場合が多いですが、米国に現地法人を設立してまでも、という考えで支店の設立を予定している場合、どのような点に注意すべきかを連邦、州の税務調査の現場経験から以下にご紹介します。

 

米国支店としての監査、レビュー済みの財務諸表は個別に存在するか


 

税務調査官が注目するのは、課税所得計算の骨組みとなる支店の財務資料が米国の会計原則又は類似する会計原則に基づいて作成されているか、です。さらに、それぞれの会計原則に則して独立監査法人の監査やレビューなどのAttestationが支店の帳簿に関して行われているか、という点も税務調査の焦点となります。

個別の財務諸表が存在せず、Attestationが行われていない支店の財務資料に関しては、内容が証拠としてどの程度信頼できるか、収益、費用が税務当局が認める方法、タイミングで計上されているかどうか、が争点になります。「支店であれば個別の帳簿は必要ない」という訳にはいかない為、支店であっても現地法人相当の会計処理が必要になります。

 

米国支店としての帳簿はドル建てで存在するか


 

米国外の法人であっても課税所得計算はドル建てで行う必要があります。米国支店の帳簿が日本の本社で円建ての帳簿内に含まれている場合、どのようにしてドル建てに換算するか、また、換算した結果が税務当局に認められるか、という問題に発展します。

米国支店のドル建て取引(ドル建てで収益、費用が発生)がそのままドル建てで課税所得に反映されていれば問題は少ないのですが、上記で言及した個別の財務諸表を米国の個別の会計システムで記帳していない限り、外貨換算のリスクは残る、というケースが税務調査でしばしば見受けられます。為替差損益についての会計上の処理が日本と米国では違うこともありますので、円建て表示をドル建て表示に変換する場合、注意が必要です。

米系の多国籍企業の一例ですが、日本の支社内ではドル建て帳簿と日本円の帳簿が二本立てで存在します。それぞれの取引がドル建てか円建てかに応じて帳簿を使い分けて仕訳を行い、ドル建ての連結決算では日本円帳簿のみ社内の換算レートでドル換算するというシステムを導入しています。

こういった環境下では外貨換算リスクはある程度回避できますが、大掛かりなシステムを必要とするため、米国での税務調査の観点からは1の個別の会計システム及び財務諸表作成の方法で支店の会計を管理し、それを日本の本社で取り込む(その時点で日本円換算)、という方法をお勧めします。

 

移転価格スタディは行っているか


 

支店であれば現地法人の米国子会社と違って移転価格スタディは必要ない、という見方があるようですが、実は支店であっても業務内容によっては移転価格スタディの提出を求められることがあります。米国の法律では、原則論として移転価格スタディ、いわゆる同時文書化は納税者の義務として毎年行うことになっています。

例えば、支店は日本の本社の一部であるから本社、支店間の取引は同じ社内なので一般的には移転価格税制の対象にはなりません。ただし支店は米国における恒久的施設として、本社とは独立した採算性を持つ必要があります。租税条約により本社、支店間の取引に非関連会社間取引と同等のレベルが求められることもあります。

また、支店が他の関連会社と事業を行っている場合、その関連会社間取引が同業種の非関連会社間取引と同レベルの収益性をあげているか、という点では移転価格税制の対象になります。支店は駐在事務所と異なり収益を上げることが目的で設置されるため、法人同様に黒字経営の見通しがあるかどうか、ない場合は何が原因か、を税務調査官が納得する理由を提示して、税務申告書の内容に移転価格税制上の問題がないことを理解してもらうことになります。

支店を開設した場合、初期及び初めの数年は利益が出ない課税年度がありえます。移転価格税法上は、最初の数年間の損金計上はスタートアップ時に一時的に発生したという事であれば、税務調査官が特に問題にしない事もあります。しかし、支店だからといって、毎年毎年税務上の利益が発生しないようなビジネスモデルは、米国の移転価格税法上お勧めできません。

移転価格については「会計税務 A to Z」でも詳細に説明しています。こちらも是非ご覧下さい。

 

借入金に関わる支払利息の損金算入はあるか


 

米国子会社が日本の親会社から借り入れ、または親会社の保証の元に金融機関から借り入れをする場合、支払利息に過少資本税制の制限や支払いベースの損金扱いなどの規則があるため、支払利息全額が毎年損金算入できるとは限りません。

同様に、米国支店の場合も他の税法上の制限の元に、支払利息を全額支店の損金扱いとできないことがあります。これは支店は日本の本社の一部であるがために、過度に支払金利が本社から支店の損益に配賦される可能性があるため、税法上制限が設けられているためです。支店の場合は全世界資産、負債の比率を米国の資産、負債に当てはめて支払金利の損金算入上限を計算し、それ以上は損金算入できない仕組みになっています。

支店の方が税務申告が単純と思われるクライアントが多いのですが、前述の通り、米国国内の財務諸表に加え、日本の本社の財務諸表も申告書作成の過程で参照する必要があるため、税務申告作業は大概米国子会社より複雑になるケースが多いのが事実です。また、本社の経理担当者にかかる負担も支店の方が大きいようです。

 

本社からの経費配賦はあるか


 

支店の運営に関して本社でも事務処理などのサポートを行っている為、本社で発生した費用の一部を米国の支店にも配賦したい、というご相談を受けることがあります。本社経費の配賦の有無はIRSの税務調査官が最も注目する内容の一つであるため、本社経費配賦には細心の注意が必要です。

例えば、必要以上に本社経費が米国支店に配賦されないよう配慮する必要があります。合理的な計算方法は何かを社内で検討して頂き、業務内容に則した方法で本社で発生した費用の一部を米国の課税所得計算上損金扱いします。計算根拠が税務調査官にも説明できるような文書を残しておくべきでしょう。

複数の海外支店が既に存在している場合あるいは将来的に発生する場合、日本と米国以外の諸国の税法を考慮した整合性のある経費配分が必要です。外国法人として必要な開示がIRSの書式に別途ありますが、その中に記載の配賦方法には、米国支店と全世界ベースの総収益、資産、人員をそれぞれで比較し、その中から比率を選択し、本社経費の配賦比率として使います。それ以外の方法も可能ですが、計算根拠を示す表を申告書と共に当局に提出する必要があります。

 

州税の申告形態は


 

上記で言及の個別財務資料があるので会計情報は十分か、というと実は州税に関して意外に知られていない落し穴があります。

州によっては連邦と異なる方法で課税所得を計算する州があり、連邦は米国の事業に関わる損益がベースになっても、州は日本の本社の損益を全世界ベースで取り入れて計算せよ、としている州があるからです。例えばニューヨーク州、ニュージャージー州は全世界ベースで一法人の課税所得を計算し、そのうち州対全世界ベースの比率で一部を州内課税所得として課税対象にします。バージニア州は連邦の課税所得と基本的に同等の課税ベースです。

ニューヨーク州、特にニューヨーク市は支店としてかなり人気、あるいは必要性があるようですが、ニューヨーク市もニューヨーク州に倣い全世界ベースで課税されるため、例え支店の損益が黒字でなくても、本社が全世界ベースで黒字であれば所得ベースの税額が発生します。

さらにニューヨーク州、ニューヨーク市共に他に類をみない投資株式、子会社株式に分離課税がされるため、日本の本社の投資物件の詳細まで州、市の申告書作成に関わってきます。米国の現地法人であれば、連邦の課税ベースと州の課税ベースは同一で一部税法が異なる部分は調整を行う程度で済みます。

当然ながら全世界ベースで課税対象となる州税の税務調査は、本社の全世界ベースの財務諸表が対象になります。米国法人の税務調査より多岐にわたる資料提出が求められるため、州の税務調査官の目から見れば、「支店で事業を行う利点はあるのか」という疑問が上がるようです。

 
 

以上が、支店の税務調査でしばしば問題として提起される注意事項です。米国に支店を開設することで税務調査が日本の本社を巻き込む事態に発展することが往々にしてあります。法人税務の観点から見ますと、米国子会社を設立して米国内の税務調査に留める方が、米国事業に携わる関係者の負担を最小限に留めることで有益と考えます。

(注:当該記事は特定の個人あるいは企業を対象とした税務に関するアドバイスを目的としたものではございません。また納税者に賦課されたペナルティーを回避することを目的としていないため、そのような目的で当該記事の内容を使用することは出来ません。)

提供元

EOS会計事務所(EOS Accountants LLP)
1996年の設立以来、中・小規模の日系企業を中心に多国籍企業へのサービスを提供。日系企業を中心にきめの細かいサービスを提供することを常に心がけ、長年のグローバルな経験を持つプロフェッショナルがお客様との信頼関係を維持し、会計監査、税務および各種コンサルティングにおいて質の高いサービスをリーズナブルなフィーで提供しています。

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